旧近藤邸

 藤沢市で移築保存されている「旧近藤邸」は「加地邸」と同じく、遠藤新がフランク・ロイド・ライトから独立して間もない頃に設計されています。
この別荘は1925年に海岸へ近い松林の中に建てられ、その後の保存運動や署名集めによって1981年に現在の場所へ移築、2002年には国の登録文化財に指定されたそうです。

1階の居室は南側の庭を囲むように配置されていて、建物の西側を公的部分とするように「居間兼食堂」と続き間の「和室」が南向きに並んでいます。
台所と食堂の有機的な繋がりよりも、「玄関」を中央にした公的部分のゾーニングが優先されているようです。

現在では「居間兼食堂」が飲食店の客席として利用されていて、部屋の北側中央にある大谷石の暖炉はイベント等で火入れをしているそうです。
暖炉の向かい側には、南向きの大きな出窓とソファーが造り付けられています。
この部屋は床高が地面の近くまで下げられているため、両開きのドアからテラスへ段差無く出入りできるようです。

展示されていた模型では、庭に面した軒先の格子部分に植物を絡ませてあり、移築時に撮影された写真でも現況のようなパーゴラは設けられていませんでした。
この部分は設計の意図とは違っていて、屋根の木材に負担を掛けず、メンテナンスのためにも変更されていると思われます。
屋根とパーゴラを支えている列柱は必要以上に太く感じられますが、もしかすると木造の工法とその耐久性に考慮されたデザインなのかもしれません。
模型では軒下のテラスが気持ち良さそうですが、移築後の現状では南側の建物やパーゴラの日陰になってしまうようで、列柱の脚部や小さな池の周りに苔が生えていました。
『まづ地所を見る 地所が建築を教へて呉れる』。移築前はどのような建築だったのでしょう・・・。


建物の東側には広い廊下の先に和洋折衷の「和室」が配置されていて、それらの西向きの窓からテラス越しの庭が望めるようになっています。
現在は客席として使われているモダンな和室には、付け書院のような大きな出窓がありますが、この建築では殆どの開口部に雨戸や鎧戸が設けられていません。
そのためか、部屋ごとに窓が組子のように区切ってデザインされていて、ガラス板を小さくする効果や窓からの侵入を防ぐ意図があると思われます。
この「和室」の奥には裏方部分として小部屋と「台所」が南北で繋がり、さらに北側に階段や水廻り等がまとめられ、「土間」は「台所」と「浴室」へ直接繋がれています。
屋外からサニタリーの小さな連続した窓と、「浴室」の高所に設けられた換気口を観ることができました。

2階で一部屋だけ配置されている「和室」には、出窓やベンチが設けられていて、その窓の組子は1階よりも大きく区切ってデザインされているようです。
廊下部分は「サンルーム」として設けられていますが、その西向きの配置や窓の大きさから考えると、室名通りの用途で計画されたのか疑問が感じられます。
そして、図面に「露台」と表記された屋上も設けられていますが、そこに面した窓は曇りガラスで開けることもできず観ることはできませんでした・・・。
大正末期の木造建築でありながら、防水仕上げは階下の「玄関ホール」と「居間兼食堂」を合わせた広さになっています!

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